男性は6月16日午前5時に自宅裏の畑で野菜を収穫していた。宇都井地区は山あいに民家が立ち並ぶ地域で、畑の先にやぶが生い茂る山がある。
コツンコツン-。何かをたたくような小さな音がした。「鳥だろうか」。耳を澄まし音の出どころを探ると、やぶの中からだった。やぶまで2~3メートルの距離に近づき、音の原因を確かめようとすると突如、大きさ1メートルほどの黒い物体が飛び出し覆いかぶさってきた。
目の前に牙が生えた大きな口を広げていた。「クマだ」。自分の頭が強い力で引き寄せられた。「かまれたらおしまいだ」と必死で押し返した。頭部や腕、脇腹をひっかかれながらも、クマが離れた隙に自宅に逃げ込んだ。右目に大けがを負っていた。
男性は10日間入院し右目の摘出手術を受けた。地元の猟友会会員でもあるが、利き目を失ったために猟銃は使えず、銃砲所持許可証を返納した。日常生活でも距離感や段差が分かりにくく支障を来している。
「まさかクマだとは思わなかった。今でも畑仕事が怖い時がある」と脳裏に焼き付いた恐怖を語る。
「クマを駆除するな」という意見もあるが、男性は襲われて失明。県外では命を落とした人もいる。「被害がある地域の実情を知ってほしい」と訴えた。