■突然の怒り 議論がこう着して丸6年
「水問題に関して具体的な対応なく、静岡県民に誠意を示す姿勢が無いことに対して心から憤っている」
2017年10月10日。すべての始まりは川勝平太 知事による、この一言だった。
県内で工事を始めるに当たって必要なJR東海・県・利水団体との協定締結が間近と見られていた中で突如として怒りを爆発させた。
あれからちょうど6年。静岡工区の工事は今も着工していない。
静岡県が問題視したのはトンネル工事に伴う大井川の水資源への影響と南アルプスに生息する動植物への影響だ。
この間、県がJRに求めたトンネル湧水の戻し方や突発湧水への対応など、いわゆる“47項目”に関する議論がこう着したため、仲介に入った国土交通省の提案によって有識者会議が設置された。水に関する議論は2020年4月から全13回の会議を経て「トンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される」などといった報告書が出され、生物に関する議論も9月26日に開かれた会議で報告書案が示されている。ただ、県は「まだまだ気になっている部分がある」と反発し、「課題を積み残したままで『案』が取れることはないと考えている」と、“拙速”な議論の取りまとめにならないよう牽制した。
(略)
■再びルート変更に言及?
この発言に記者たちはさらに困惑する。なぜなら、この発言はかつて川勝知事が主張していた“ルート変更”や“山梨・品川間の部分開業”を匂わせるものだからだ。ただ、2022年に静岡県がリニアの建設促進期成同盟会に加盟した際、知事は「現行ルートでの整備を前提とする」ことなどを各会員に約束し、入会を認められたという経緯がある。このため、発言の真意を問われた川勝知事だったが「本当に必要なのはリーダーシップ。従来決めたことをそのまま脇目もふらず邁進して、場合によっては前に崖があることを知らずに突き進んでいって、崖下に落ちてはならない」と持論を展開しつつ、回答を避けた。
一方で、この会見では「私がJR東海の意思決定者であれば、現在の川勝と膝を突き合わせて話して、その場で解決策を出せる自信がある」とも語った川勝知事。
リニア問題に関する真意とゴールはどこにあるのか。その答えは今のところ知事本人以外、誰にも見えていない。