歯列矯正はじめました
新緑の季節ですね。
マスク生活からもようやく解放されつつある中、街行く人々の口元も心なしかほころんでいるように見えて、いつもに増して楽しい気分になります。
気づけば3年にも及んだマスク生活。この間に多感な時期を過ごした子どもたちの中には、なかなかマスクを外す気になれない子も少なくないらしいですが、迫りくる猛暑に向けてだんだんと「脱マスク」が進んでいくのではないでしょうか。
さて、こんなタイミングで、筆者はかねてより気になっていた「歯列矯正」を始めました。
3年前に始めときゃ良かったじゃないか!と、つくづく自分の愚図さに腹立たしくもなりますが、始めただけでも自分をほめることとして、ここに至る顛末をしたためておこうと思います。
生来、口が小さいと言われていた筆者。
子どもの頃はきれいな歯並びでしたが、「乳歯の段階でこんなにきっちり生えていたんじゃ、永久歯が生えそろう隙間がないよ」と常々歯医者さんに言われていた通り、永久歯に生え変わるタイミングで立派な出っ歯となりました。
10000歩譲って可愛く例えるならば、うさぎかリスのように上の前歯が大きい状態なのですが、口が小さく歯茎があまり長くないため、人から指摘されるようなことは特にありませんでした。
ですが、りんごを食べるたびに「そう、私は出っ歯」と思い知らされるわけなのです。
りんごと言ってもまるかじりではありません。カットされたりんごにフォークをさして食べる時、一口かじり取った残りの方に、くっきり上の前歯の歯型が刻まれることで、己の出っ歯具合を実感する次第でした。
さりとて、発音に障りがあるでも、日常生活に支障があるでもなく、せいぜいりんごをかじると悲しくなるのと、冬の寒風で「歯が乾く」くらいのものだったので、だましだまし生きてきたのです。
が!
衝撃の展開が待ち構えていました。
出っ歯に加えて、衝撃の「すきっ歯」状態まで併発する運びとなってしまい、慄きながら歯医者さんに駆け込んだのが、去年の年の瀬のこと。
筆者には就寝時に歯ぎしりをする癖があり、寝ている間に歯をガードするためのマウスピースをしています。
それもあって半年に一度ほど定期健診に通ってはいたのですが、このマウスピースがどうにもしっくりこないというか、違和感が増している気は、うすうすしていたのでした。
加えて、以前は前に出ているだけだったはずの上の二本の前歯の間に、明らかに隙間が出現しているのです。
隙間よ、お前は一体どこから来た?これは一体どういうことだ…?
ふるえながら歯医者さんに聞いてみると、「歯って、動くんですよ」と軽やかなご回答をいただきました。
口の中の癖や、頬杖などの外的要因でも、定期的に力が加わることで歯並びは変わってしまうのだそう。
長年シンプルな出っ歯をキープしていたというのに、なぜここへ来て出っ歯に加えてすきっ歯まで併発してしまったのかは、詳細な原因を特定することは難しいものの、考えられる要因をいくつか教えていただきました。
・元来の歯ぎしりによる加圧
・舌で歯や上顎を押す癖の影響
・マスク生活による口呼吸の増加
・歯茎が痩せることによる歯の位置変化
そんなこんなで、出っ歯なうえにすきっ歯になってしまった己の歯並びをどうにかするにはどうしたら良いか、半泣きで相談したところに勧められたのが、「歯列矯正」という選択肢。
え?
当方けっこう良いオトナなんですが、アリなんですか…?と、先生からしてみると「何言ってんだコイツ」という間の抜けた質問をしてしまいました。
というのも、筆者は子ども時代から「歯列矯正」を提案され続けてきた身。
「5年生になったらやった方が良いですよ」「中学生のうちにやった方が良いでしょう」「二十歳になる前に終わらせた方が良いですね」と、近い未来を設定して勧められてきたので、「矯正は若いうちに、期間を決めてやらなくてはならないもの」と意識に刷り込まれておりました。
筆者の母が「健康な歯を抜く」ことに抵抗感があったため、子ども時代に矯正をするには至らず、筆者は成人しました。大人になってしまった自分にまさか「歯列矯正」という選択肢が残されているとは思い至らず、それなりに人生をエンジョイしながら、時を過ごしていたのです。
筆者がかくれ出っ歯としてひっそり生きている間に、世の中は様々な進化を遂げていました。
大人の歯列矯正はもはや当たり前。
表側からは矯正器具であるワイヤーやブラケットが見えない「インビザライン」といった方法もあり、大人になってからやる人も全く珍しくない上に、一度矯正が終わったとしても前述の通り「歯は動く」ものなので、また歯並びが変わってしまった、元に戻ってしまったといった理由で再度トライする人もいるようです。
でも、お高いんでしょ?ウン十万とかしちゃうんでしょ?
と、びくびくしつつも聞いてみると、レントゲンをとって口腔内の様子を詳しく調べてからでないと具体的な方法は決められず、したがって金額を見積もることもできないとのこと。
まさに「人それぞれ」というわけです。
それでも、日々広がっていく前歯の隙間におびえて生きることに変わりはありません。
やるかやらないかはさておき、検査だけなら数万円で受けられるということで、とりあえず受けてみたのが、紹介された矯正歯科の予約が取れた1月のことでした。
そして萌える若葉もまぶしい現在、筆者はまもなく矯正3か月目に突入します。
前歯には、子ども時代に友達がしていたような「THE!矯正」という感じのワイヤー&ブラケットが燦然と輝いています。
マスクを外すのにちょっと勇気がいったり、骨付き肉やサンドイッチなどに思いっきりかぶりつけないのがもどかしいくらいで、矯正生活は思っていたよりはるかに快適です。
事前に痛み止めを処方してもらったため、「いろいろ痛いに違いない」と覚悟を決めて臨んだにも関わらず、器具が口の中に当たってけがをすることも、歯が動く痛みも、今のところそれほどなく過ごせています。
にもかかわらず、恐怖でしかなかった前歯の隙間は1か月目で埋まりました。
日々広がりつつあった隙間を、元に戻すことができただけでもうれしいのですが、これから数か月かけて、前に出ている上の前歯をまっすぐにする方向に調整していくことになっています。
いやーすごいわ。
永久歯に生え変わってからの長い長い年月を共にしてきた出っ歯と、おさらばできる日が来るかもしれないのです。
思い切って良かった。本当に良かった。
今となっては、前歯の間に突如表れた、暗黒の隙間に感謝すらしています。
キミのおかげで思い切ることができたのだから。
マスクからも解放される今年は、季節の移り変わりが例年以上に楽しみな筆者です。